雷に打たれた猫だけができたこと

先日のこと。
東京駅構内のど真ん中で、
突然、
何の前触れもなく…
右足が…こむら返り!

一歩も、どころか
ちょっとでも足を動かすと激痛です。
ああ、情けない…。
それでも、
人の行き交うど真ん中でうずくまってるのは、
きっと人の邪魔だし、
ちょっと恥ずかしいなと思い、
ゆっくりと柱の陰に移動。
しゃがんで足をさすりながら
強張った筋肉が緩むのを待ちました。

行き交う人たちの大半は、
こんな私を一瞥だにしません。
かえって気楽なくらいです。
ところが一人だけ、
足を止めて声をかけてくれた
妙齢の女性がいました。

「どうなさったの?大丈夫ですか?」

「足がつっただけですので、すぐにおさまると思います。
 ありがとうございます」

「私もよくありますよ。お辛いですね。お気をつけて」

なんとも心救われるお声掛けでした。

その後、人並みを眺めつつ
10分ほど痛みの引くのを待ちながら、
雷に打たれた猫のことを思い出していました。
とあるメッキ工場の事務所にいた猫のことを。

ずいぶん前に仕事で、
そのメッキ工場の
事務処理用コンピュータの
メンテナンスを担当していました。

事務所で飼われている
ずいぶん立派な体格のその猫は、
キーボードの上にわざと鎮座したり、
事務所に来る客を威嚇したり、
半径30cmに近づく人を
かたっぱしから引っ掻いたりするので、
私にとっては特に天敵でした。
猫がいなくなるまで仕事ができない。

ただでさえ猫アレルギー持ちで、
コンピュータに猫の細い毛は、
百害あって一利なしと思っていた私にとって
まったくかわいくないし、
はっきり言って邪魔な存在。
猫め!退け!
いつもそう思っていました。

さて、
なんで(こんな猫を)飼っているのか、
それとなく会社の方に聞いてみたことがあります。

きっかけは会社の敷地内に他の子猫と一緒に
捨てられていたからだそう。

他の猫は、知り合いに引き取られたけれど、
一番体調がすぐれず弱々しく、
見た目もイマイチ、
臆病で人にも馴染まぬこの猫だけが
引き取り手が見つからず。
しょうがなく毎日誰かが居る会社の事務所で
飼うことになったのだとか。

その後、数週間。
メッキ工場の皆さんのお世話の甲斐もあり、
この猫はみるみる体力を取り戻し元気に。
少し人にも馴染んできた。
しかしちょうどそんな時…。
夜間、会社の敷地内に、雷が、落ちた!

朝、会社の皆さんが惨事の後の
事務所に出勤してみると、
無残な被害にあった備品や電子機器と
眼光鋭く性格が一変し凶暴化した猫が
待っていたそうです。

以来、この雷に打たれた猫は、
困った存在ながら、
責任を感じたメッキ工場の皆さんの
温かい愛に包まれて
事務所に鎮座していたというわけ。

ところが、ある日、
また、この事務所に行かなければならなった私。
前日にプライベートでかなりショックを受ける出来事があった
その翌日でした。
本当は仕事を休みたいぐらい
珍しく打ちひしがれていたのに、
よりによってあの邪魔猫のいる事務所。

事務所入口のサッシ戸を開けると、
その日は受付カウンターの上で、
鋭い眼光を放っていたサンダーキャット!

目を合わせないように、
メンテナンス対象機器のある
デスクへと回りこみそっと準備を始めました。
しかし、さっさと仕事を済まそう、そう思っていても、
昨夜の出来事が頭をめぐり泣けてきそうに
なってきて、手が止まってしまう…

その時です。

足に何か触れるものがあります。

ペロリ、ペロリ…

あの猫が、私の右足をなめていた。

え?と思って、
あろうことが猫を直視してしまいました。
(通常ならその直後にひっかかれるか噛まれる)

ところがこの時だけは、
猫はじっと私を見上げながら、
もう一度、
足をペロリと舐めて去って行ったのです。

不思議な体験。
普段は邪魔な存在の
この猫だけが、
ほんのひと時、
私の心をほぐしてくれたんです。

pl-2014187155449

痛みを知るからこそ
邪魔者扱いされたことのあるからこそ
解ることや、できることってありますね。
きっと。


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